こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界

展覧会感想

先日近くに用事があったので、ついでに岐阜県美術館に行ってきました。
お目当ては所蔵品展の「ルドンコレクションから:ルドンとフランス世紀末絵画」だったのですが、現地で看板を見てあまりの可愛さに「こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界」も観ることにしました。
観終わって大満足!
図録も購入しましたが、どのページもとっても可愛いのでお勧めです。
(※追記 図録は9月14日の時点で完売してしまったようです。)

岐阜県美術館はどちらかというとこじんまりとしていてお客さんも少なく、普段はゆったりと観てまわれることが多いのですが、この日は図書館と共通とはいえ駐車場もほぼ満車。
小さいお子さん連れの家族が沢山来館されていて、とても賑やかでした。
展示室内には実際に手に取ることができる絵本も沢山用意されていて、展示物に飽きてしまったお子さんも楽しく過ごせていましたよ。

グラフィックデザイナーから絵本作家へ

若山憲さんは岐阜県出身の絵本作家さんですが、最初はグラフィックデザイナーとして活動されていました。
その後上京し、紙芝居や教科書の挿絵などの仕事を経て絵本の世界へと入っていきます。
嬉しいのは絵本の挿絵の原画が多数出品されていること。
水彩やインク、色鉛筆などを使用して描かれた原画はそれぞれの画材の特徴を生かしたタッチと日本の豊かな自然から得られる優しい色合いが調和してたいへん美しかったです。

私が一番好きだったのは『りぼんをつけた おたまじゃくし』という絵本。
水中で暮らす生き物たちがイキイキと描かれていてどの場面も目が吸い寄せられます。
特にザリガニが金魚をいじめているシーンではその迫力に、小さい頃に絵本を読んだときに感じていた冒険をしているかのようなワクワク感を思い出すことができました。

また『きつねやまのよめいり』では、優しく柔らかな色合いとタッチが、提灯のあかりが灯る幻想的な銀世界へと連れて行ってくれます。
人間の文明と自然との関係が描かれた物語ですが、この美しい絵と相まってなんとも切ない気持ちになりました。
原画と一緒にそのページの文章が紹介されているのですが、少ない言葉から色んなことが想像でき、「余白」の部分を味わいながら読むことができました。

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「こぐまちゃんえほん」シリーズの誕生

実は今回の展覧会で出会うまで、私は「こぐまちゃんえほん」シリーズを知りませんでした。
初めて見たときは失礼ながら「あれ、ミッ〇ィー?」と思ってしまいました。
それもそのはず、ご本人も影響を受けている旨の発言をされているようで、当時はディック・ブルーナの幼児向け絵本が日本で出版され始めた頃でした。
「こどもがはじめてであう絵本」と銘打たれたブルーナのシリーズは大変魅力的なものでしたが、どうしても外国の絵本では日本の子どもたちが知らないものや文化も登場します。
「日本のこどもたちがはじめてであう本」を作るために若山さんを含む4人がチームを作り、そこで生まれたのが「こぐまちゃんえほん」シリーズでした。

はっきりとした輪郭や鮮やかで美しい色はブルーナの絵本と似ていますが、使用されている色は落ち着いた日本らしい濃い中間色です。
また子ども向けだからこそ発色にこだわり、色が濁らないようにそれぞれ色ごとに描き分けた判を用意して1色ずつ重ね刷りするリトグラフという方法で制作されています。
シリーズ1作目の『こぐまちゃんおはよう』で印象に残ったのはこぐまちゃんが排泄をするシーン。
子ども向けの絵本で排泄のことをどのように伝えるかはなかなか難しい問題ですよね。
『こぐまちゃんおはよう』では、汚いと嫌悪することもなく、面白おかしく笑いの対象とすることもなく、ただ日常の当たり前の習慣として描かれています。

作品が出来上がるまでの過程を知ることができるのも展覧会の魅力の一つ。
「こぐまちゃんえほん」シリーズでは、下絵やどこに何色を刷るかを指示した6色描き分け原画などが展示されています。
下絵では配色や画角、こぐまちゃんたちの名前などを試行錯誤している様子を見ることができます。
また、絵本の完成後も読者からの反応をみながらイラストを変更したり、時代の変化に合わせて修正を加えたりしていることも興味深いです。
『しろくまちゃんのほっとけーき』では、ホットケーキの完成シーンが差し替えられています。
大人の視点だけでは気づけない部分を読者から教えてもらい、変更していく。
読者と絵本を作り上げていく姿勢が素敵でした。

わかやまけんの絵本の世界

若山さんは「こぐまちゃんえほん」シリーズも他にも、多くの絵本を手掛けています。
言葉が主ではなく、絵の力でお話を伝えることができる「純絵本」を目指す一方で、児童文学者や詩人などとも一緒に作品を制作しています。

『ぼく みてたんだ』や「おばけのどろんどろん」シリーズは若山さんが絵と文の両方を手掛けた作品です。
『ぼく みてたんだ』では空から舞い落ちる雪によって景色が変わっていく様子をオイルパステルをメインに描き上げており、より効果的にみせるために雪を別の判で刷っていることが分かります。
また、おばけなのに怖がりだけど、優しく勇気のあるどろんどろんが主人公の「おばけのどろんどろん」シリーズは絵がどれも素敵でシリーズすべて読んでみたくなりました。
現在新品で購入できるのは『おばけのどろんどろんとぴかぴかおばけ』だけのようですね。
図書館などで見かけたら手に取ってみたいと思います。

他にも色んな絵本の資料が紹介されていましたが、絵本によって画風がかなり違うことに驚きました。
意識して作者を確認しないと同じ作者だと気づかないと思います。
表現したいものによって絵柄を変えているんですね。
もちろん好みはありますが、どれも物語の内容に合った味のあるイラストだと感じました。

会場には絵本の他にも、詩誌や雑誌の表紙絵、若山さんの詩画集などが展示されています。
特に雑誌『保育の友』の表紙絵がすごく好きでした。
テーマや画風はそれぞれ異なりますが、優しく、あたたかく、メルヘンで楽しい世界はときめきを与えてくれます。

おわりに

知っている作品が一つも無くて楽しめるかな?とちょっと不安な気持ちで挑んだ今回の展覧会ですが、大ボリュームでとても充実した時間を過ごせました。
観覧中、近くにいたご夫婦が「この絵本、いいかもしれないね」と小声で話しながら回っていたのが印象的でした。
絵本は本屋さんで実物を見ながら選ぶのはもちろん、今の時代はインターネットで簡単にいろんな人のレビューを見たり通販で購入したりできますが、こうやって作品に込められた作者の思いやその背景に直接触れることができるのは展覧会ならではかと思います。
絵本を選ぶもよし、子どもの頃に思いを馳せるもよし、作品ができる過程に注目するもよし、純粋にただただ見て楽しむのもよし。
普段美術館を訪れない方にも、気軽に足を運んでみてほしい、そんな展覧会でした。

「こぐまちゃんとしろくまちゃん 絵本作家・わかやまけんの世界」
会期:2023年7月21日(金)~9月24日(日)
場所:岐阜県美術館
公式ホームページ:https://koguma-wakayama.com/index.html

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